歴史と神話

歴史と神話

男は深く煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。煙草のかすかな明かりでは、その表情を読み取ること はできなかった。顔の大部分は古びた厚手のフードに隠れて見えず、男の背後には深い闇があるだけだ った。男には老兵とペテン師の雰囲気があった。男は自分を吟遊詩人だと言ったが、その声は太くしわ がれていて、誰ひとりとしてその話を信じる者はなかった。また、危険に満ちた森の中をたったひとり で旅してきたというのも 疑わしく思われた。 男は「物語を聞かせるから、食べものを分け、たき火に あたらせてくれないか」と言った。この旅人を寒い森へと追い立てるようなことはできず、男の話を聞 くことにした。たき火のそばでくつろぎながら、それでも武器は手放さずに、男が話し始めるの待った。 その夜は凍てつくように寒く、ようやく煙草を吸い終えた男が話し始めると、その低く太い声は静かに 山の彼方へと運ばれていくのだった。

1. 創世記

歴史と神話

はるか遠い昔、この世にはたった 1 つの球体だけが存在し、あらゆるものがその中で混ざり合っていた。その球体がこ の世のすべてであった。1 億年以上の歳月をかけて球体は次第に大きくなり、やがてその中で 2 つの力がゆっくりと形 成され始めた。成長とともに 2 つの力には意識と自我がめばえ始め、ついには光と闇へと分裂をはたした。白い光は女 性になって、アインハザードを名乗り、黒い光は男性となり、グランカインを名乗った。この 2 つの存在が、全宇宙と 今日知られる万物の始まりである。アインハザードとグランカインは力を合わせて球体の外へと飛び出し、このとき砕 けた球体の破片がさまざまに姿を変えていった。上に飛び散った破片は空となり、下に飛び散った破片は地を形成した。 空と地の間には水ができ、地の一部は盛り上がって大地をつくった。球体の精神も球体とともに砕け散り、さまざまな 動植物を生むこととなった。この精神から生まれた生き物の中で最も優れたものが、巨人であった。巨人には強靭な肉 体とそれに劣らない高い知性が備わっていたため、賢者とも呼ばれた。アインハザードとグランカインは、巨人をすべ ての生き物の長とした。こうして巨人は大陸を支配して繁栄することになった。

  1. 1神々の誕生

    アインハザードとグランカインは、 多くの子をもうけた。 そして、最初の 5 人の子供たちには地上を支配する力が授けられた。 1番上の娘、シーレンは水を支配した。 1番上の息子ファアグリオは火を、2 番目の娘マーブルは大地を支配した。 2 番目の息子サイハは風を支配することとなった。 次のエヴァのときにはもう何も残っていなかったので、エヴァは詩と音楽をつくった。 他の 4 人がそれぞれの役目を果たしている間、エヴァは詩を書き、それに音楽をつけて歌った。

    アインハザードは創造の神であった。 自分の精神から体を作り出し、子供たちの力を借りてその体に命を吹き込んだ。 シーレンには水の精神を吹き込んだ。これがエルフ族の起源である。 ファアグリオには火の精神を吹き込んだ。これがオーク族の起源である。 マーブルには土の精神を吹き込んだ。これがドワーフ族の起源である。 サイハは風の精神を吹き込んだ。これがアルテイア族の起源である。

  2. 2グランカインの子孫
    グランカインの子孫

    グランカインは破壊の神であった。
    グランカインはアインハザードの行いを見て、好奇心に駆られるとともにねたみを感じた。
    そして、アインハザードをまねて自分とそっくりな体を作りあげ、長女であるシーレンに、精神を吹き込むよう頼みに行った。シーレンは非常に驚き、グランカインにこう言った。

    「お父様、どうしてそのようなことをなさろうとするのですか。創造はお母様のなさることです。ご自分の役割以外のこ とをむやみになさらないほうがよろしいのではないでしょうか。破壊の神から命を授かる生き物は、災いの種になります。」

    しかしグランカインは引き下がらず、何度も説得しうまく丸め込んで、最後にはシーレンの同意を得ることに成功した。 「わかりました。でも、水の精神はお母様にさしあげてしまったので、お父様には残りのものしかお渡しすることができません。」

    そう言ってシーレンは「よどんで腐った水の精神」をグランカインに差し出し、グランカインは喜んでこれを受け取った。しかし、グランカインは自分の創 造物に 1 つの精神を吹き込むだけでは満足せず、次に長男のファアグリオのもとを訪れた。 「父上のされていることは正くありません。どうか考え直してください。」

    そう言いながらも、ファアグリオもグランカインに逆らうことはできず、「消えかけの火の精神」を差し出した。グランカインは喜んでこれを受け取った。 マーブルも涙ながらに父に懇願したが、結局は「不毛の汚れた土の精神」を与えてしまった。そしてサイハもまた「激しく荒い風の精神」を父に差し出すこ ととなった。グランカインは大満足ですべてを持ち帰った。

    「この私の創造物を見よ。水の精神、火の精神、土の精神、風の精神を授かり誕生する姿を見るがよい。巨人などよりも力強く、そして賢い者となるだろう。この者たちが世界を支配するのだ。」

    グランカインは全世界に向かって誇り高く叫ぶと、自らと同じ姿をした創造物に精神を吹き込んだ。ところが、生まれてきたものはまったくの役立たずであ った。ひ弱で、愚かで、ずるがしこい、臆病な生き物だったのである。他の神々は皆一様に、グランカインとその創造物をさげすんだ。 そしてグランカインは、恥ずかしさのあまり、自分の創造物を捨て逃げ出してしまった。彼の創造物は、人間と呼ばれた。

  3. 3巨人の奴隷

    エルフは賢く、魔法の使い方を知っていた。しかし、彼らも巨人ほどの知恵は持っておらず、巨人たちの指示で政治と魔法を担当することとなった。 オークには力があった。疲れを知らない体力と強靭な精神力を持っていた。しかし、巨人たちにはかなわず、戦争と治安を担当することとなった。 ドワーフには優れた技巧があった。計算が得意で、細かな細工に長けていた。そこで巨人たちは、ドワーフを銀行業と製造業に従事させた。

    自由を愛する種族、アルテイアは尽きない好奇心とどこへでも飛べる翼を持ち、縛られることを嫌った。 巨人たちはこの奔放な種族を捕らえて服従させようとしたが、アルテイアは鳥かごに入れられるとすぐに弱って死んでしまったため、 結局は再び開放することにした。

    その後、アルテイアは自由に世界中を飛び回り、時折巨人の都市を訪れては各地のできごとを巨人たちに知らせるようになった。 人間は何をやってもうまくできなかった。 巨人たちは人間の使い道に頭を悩ませ、結局巨人の奴隷として、あらゆる卑しい仕事をさせることにした。 その頃の人間の暮らしは動物と大差のないものであった。

  4. 4死の女神、シーレン

    グランカインは自由奔放な神であった。自分の娘シーレンを誘惑するという 大きな過ちも犯してしまった。シーレンはグランカインの子を身ごもった。 このことを知ったアインハザードは激怒して、シーレンから水の女神として の地位を剥奪し、大陸から追放するよう命じた。シーレンは、身重の体で東 方へとのがれて行った。それから間もなく、彼女は暗い森の奥深くで出産し た。激しい痛みに耐えながら、シーレンはアインハザードとグランカインを 呪い続けた。苦しみの果てに産み落とされた子供たちは、シーレンの呪い、 絶望、怒りを受け継ぎ、成長とともに神に抗う鬼神となっていった。 鬼神の中で最も強いものは「ドラゴン」と呼ばれた。ドラゴンは全部で 6 匹 で、アインハザードを含めた 6 人の神々に対する呪いとともに生まれてきた。 神々の戦争が勃発したのだ。最強のドラゴンは、鬼神の軍隊の最前線で神と 戦うことを命じられた。これを聞いた、光のドラゴンであるアウラキリアは、 悲しげな眼差しでシーレンに言った。

    「お母様。ご自分がなさろうとしていることをわかっていらっしゃるのですか。本当に神々を滅ぼしたいとお望みですか。本当にご自分のお父様やお母様、ご兄弟が血の海に沈むことをお望みですか。」

    しかし、アウラキリアの訴えもシーレンの決意を変えることはできなかった。 そして、ついに鬼神たちは神々が住む宮殿に攻め込み、し烈な戦いが開始さ れた。6 匹のドラゴンの攻撃は特に激しく、神の宮殿をことごとく破壊して いった。ドラゴンの恐るべき力には、神々でさえも圧倒された。形勢はほぼ 互角で、戦いは永遠に続くかのように思われた。もしこの戦争が終わってい なければ、この世は終末を迎え、すべての生命が死に絶えていたことだろう。

    多くの神の使者や鬼神が命を落とし、消えていった。毎日のように雷鳴が轟 き、稲妻が空を切り裂いた。強力な軍隊が天空で激しくぶつかり合い、巨人 やその他地上の生き物は震えおののいて、怯えながらそのようすを見守っていた。

    こうしたし烈な戦いが何年も続いた後、ついに均衡が破れ形勢は次第に一方に傾き始めた。 アインハザードとグランカインが多くの痛手を負いながらも、その強い力で 多くの鬼神を滅ぼしていったのだ。ドラゴンたちは深く傷つきながらも勇敢 に神々に立ち向かっていったが、次第に疲労が色濃くなっていった。 やがてシーレンの軍隊が壊滅状態になり、戦争は終結へと向かっていった。 そしてついに、ドラゴンたちはその翼を広げて地上へと逃げ出し、生き残っ た鬼神たちもつぎつぎとそれに続いていった。神々は鬼神たちの皆殺しを望 んだが、自らも傷を負っていたため、逃げていく敵をただ見ているほかなかった。

    子供たちがつぎつぎに倒れ、戦いに敗れると、シーレンはその悲しみに耐えることができなくなり、「死」を生み出して、その世界を支配した。グランカインも、シーレンのため、そして死の運命に直面しなければならないすべての生き物のために死の世界へと入っていったのだった。これが死の起源となる。

  5. 5大洪水とエヴァ
    大洪水とエヴ

    シーレンが去った後、末娘のエヴァが水を支配する力を受け継いでいた。
    しかし、元々臆病な性格のエヴァは、姉の壮絶な死と神々の戦いを見てことさら恐怖心を強めていった。重い責任から逃れるために、エヴァは湖の底にトンネルを掘り、その中に隠れて過ごした。支配するものがいなくなってしまったため、大陸を囲む水の精霊はどうすればよいかわからなくなり、あてもなくさまよい始めた。ある場所では、大量の水が流れ込み沼地になった。また別の場所では水がまったく流れて来なくなって砂漠ができた。さらに、あちこちで大陸の一部が突然海の底に沈んだり、何もないところから新しい島が出現した。場所によっては、夜となく昼となく雨が降り続き、高い山の頂を残してすべてが水没してしまうところもあった。水没をまぬがれた陸地には、すべての生き物が自らの命を守るために群がり、大混乱をまねいていった。陸上でも、海中でも、あらゆる生き物がこの天変地異に苦しんでいた。すべての生き物を代表する巨人が神々のもとに赴き嘆願した。神々ももはやこの状況には我慢がならなくなっていた。アインハザードとグランカインは大陸中を探し回り、ようやくエヴァが隠れている湖を見つけ出した。「エヴァ、お前が自分の責任を放棄したためにどういうことになっているのか、よ?見なさい。お前は私たちが作り上げたこの大陸の調和を壊しているのですよ。いつまでも逆らい続けるのなら、容赦はしません。」

    アインハザードの怒りは激しく、その目には炎が燃えあがっていた。洪水によって、数え切れないほどの巨人やその他の生き物がシーレンの世界へと旅立って行った。そのため、アインハザードはシーレンのことをとても妬んでいたのだ。エヴァはふるえあがり、母であるアインハザードに従った。エヴァが再び水を治め始めると、水の災害は起こったときと同様に次第におさまりをみせていった。しかし、一度荒廃してしまった大陸を元に戻すことはもはや不可能になっていた。

  6. 6巨人の欺瞞

    神々の度重なる失敗によって、巨人たちの心の中に疑問が生まれ始めていた。グランカインは、人間という程度の低い生き物を創り出したことで、すでにそ の愚かさをさらけ出していた。グランカインの淫らな振る舞いとアインハザードの嫉妬から死が作り出され、さまざまな鬼神が生まれることとなった。 さらに、エヴァが弱く力がなかったために、大陸は荒れ放題になってしまった。巨人たちの心の中で疑問の種がめばえ始めていた。

    「あのような神々を崇拝する価値があるのか。」

    巨人たちが次第に力を持つようになると、この考えはどんどん大きくなっていった。巨人たちは自ら作った馬車に乗り、神々の宮殿に自由に出入りできるよ うになった。また魔法を使って島を持ち上げたり、神々のように空中で生活できるようになった。さらに、永遠に生きることができるかと思われるほど、 寿命を延ばすことができるようになった。そしてついには、巨人たちは自分の力が神に匹敵すると考え始めたのである。聡明であったにもかかわらず、巨人 たちはたいへん傲慢になり、神になろうとさえしていた。そして、生き物を組み合わせて、独自の生命体を作り始めた。巨人たちは、このような奇跡を可能 にする魔法を「科学」と呼んだ。自分たちの絶大な力に酔いしれた巨人たちは傲慢になり、とうとう神々を退けてその地位を奪おうとした。

    神々と戦うために、巨人たちは強力な軍隊を組織し始めたのだ。

  7. 7神々の怒り
    神々の怒り

    神々も何もせずに手をこまねいていたわけではない。特にアインハザードは、自分だけが持つ生命を創造する権利と能 力に対して挑戦を受けたのだ。アインハザードは怒りのあまり言葉を失った。そしてアインハザードに近づこうとする ものは皆、彼女から発せられる怒りの炎に包まれて跡形もなく溶けてしまった。アインハザードの怒りは頂点に達し、 巨人を大陸や世界もろとも絶滅させることを宣言した。グランカインがアインハザードのもとに急ぎ、彼女をいさめた が、同じ神であるグランカインでさえ彼女を取り巻く炎のために近づくことはできず、ただ遠くから叫ぶことしかできなかった。

    「お前は創造の母であり、破壊は私の役目だ。私がお前の領域に踏み込んだときにどんな目に逢ったか、お前もよく知っ ているだろう。私が巨人たちの傲慢な行いに罰を与えるから、お前は落ち着くのだ。それでも世界を滅ぼそうとするの なら、私はあらゆる手を使ってお前を止めなければならない。」

    グランカインは、何としても大陸の破壊は食い止めたかった。一方、アインハザードは、グランカインが邪魔をしたことでますます腹を立ててしまった。 しかしグランカインもアインハザードも立場が同じであったため、アインハザードはグランカインを抑えることができず、 最後には説得に応じた。アインハ ザードは巨人たちを罰するために、グランカインの武器である星の槌を借りることにした。この槌は終末の槌とも絶望の槌とも呼ばれている。その破壊力は 絶大であるため、グランカインでさえその武器を使ったことはなかった。アインハザードはその槌を高く振り上げると、巨人の都市の中心めがけて振り下ろした。

    空から巨大な真紅の火の玉が落ちてくるのを見て、巨人たちははじめて自分たちがとんでもない過ちを犯したことに気がついた。 巨人たちは持てる力をすべて出して、振り下ろされた槌から身を守ろうとした。しかし、巨人の強大な力をもってしても、槌の方向をほんの少しずらすのが 精一杯だった。槌は巨人たちの都市をかすめて地に落ちたが、それでもこの上なく繁栄した都市を破壊するには十分であった。 またたく間に、無数の巨人や他の種族の生き物はどろどろに溶けてしまった。大陸には大きな穴があき、瓦礫が激しく降り注いだ。 ほとんどの巨人は死を迎えた。

  8. 8巨人の滅亡
    巨人の滅亡

    なんとか生き残った巨人たちも、アインハザードの怒りを避けるために東方へと逃れて行った。巨人たちは以前シーレ ンが通ったのと同じような道をたどった。アインハザードは巨人たちを追い続け、稲妻でつぎつぎに焼き殺していった。 恐れに震えながら、巨人たちはグランカインに嘆願した。

    「グランカインよ、グランカイン。私たちは自分たちの過ちに気付きました。アインハザードを止められるのはあなた だけです。アインハザードは怒りで我を忘れています。私たちはあなたがたと同じ場所で生まれました。そして大陸で 最も賢く、強い生き物だったのです。どうか私たちを滅ぼさせないでください。」

    グランカインは寛大な神であった。巨人たちは既にその罪を十分に償ったと考え、南洋の最も深いところから水を持ち 上げて、巨人たちに追い付こうとするアインハザードをさえぎった。 アインハザードは怒りのあまり叫んだ。「何をするのだ。どうして私の邪魔をする。愛しい娘、エヴァよ。行く手をはばむ水を今すぐ退かせなさい。さもなければ、お前も姉と同じ運命をたどることになるぞ。」エヴァはアインハザードを恐れ、すぐに水を海へと戻した。 アインハザードは再び巨人たちを追いかけ、1 人また 1 人と殺していった。巨人たちは再びグランカインに泣きついた。「グランカインよ。偉大なる我らが 神よ。アインハザードはまだ私たちを追ってきます。私たちを 1人残らず消し去るつもりです。どうか私たちの身を守り、助けてください。」

    グランカインは巨人たちが立っている大地を持ち上げた。巨人たちを血眼になって追いかけていたアインハザードは、突然、巨大な岩の壁に行く手をさえぎられた。アインハザードは叫んだ。

    「私の娘たちは皆、敵なのか。愛しい娘、マーブルよ。一体誰が私の行く手をはばんでいるのだ。今すぐこの大地をもとに戻すのだ。さもなければ、お前も姉と同じ運命をたどることになるぞ。」

    この言葉に怯え、マーブルは大地をもとに戻そうとした。しかし、グランカインは即座にマーブルを制止し、言った。

    「アインハザードよ。もうそろそろやめたらどうだ。地上のあらゆるものがお前の怒りを恐れ、恐怖に震えている。賢明だが愚かなことをしでかした巨人た ちも、自分たちの過ちを悔い改め、心の底から改心している。巨人たちを見よ。すべての生き物の上に立つものとして自信に満ちあふれていた彼らが、 今ではあんな小さな高台に隠れて恐れおののき、お前と目も合わせられずにいるではないか。もう二度と大陸には降りて来られないだろう。 また二度と私たち神にたてつくこともないだろう。あの高台は巨人たちの永遠の牢獄となり、彼らは永遠にそこに閉じ込められることになるのだ。 だから、どうかもうその怒りを鎮めてくれないか。お前の復讐はもう終わったのだ。」

    アインハザードは怒りを鎮めたわけではなかったが、自分と立場の同じグランカインの話に耳をかした。また、グランカインがいうように、巨人たちに永遠 にその行為を悔やませるには、彼らを皆殺しにするよりも、小さな、不毛の高台に捕えておくほうがよいと考えた。そうしてついに、アインハザードは巨人 たちを追うのをやめ、宮殿へと帰って行ったのだった。地上の生き物に失望したアインハザードは、その後、めったに地上でのできごとに関与しなくなっ た。そしてグランカインもまた、むやみに地上に姿を現さないことに決めた。神々の時代は、こうして終焉を迎えたのだった。

  9. 9たき火のそばで... 種族対立のプロローグ

    ここで男は、しばし口をつぐんだ。彼が話している間、我々は金縛りにでもあったかのように、身じろぎも出来ずにいた。彼の声は決して大きくはなかった が、まるで魔法の力に操られているかのように、我々の頭の奥深くに直接響いてくるのだ。彼が語った神話は、我々が知っているものとは全く違うものだっ た。しかし、誰もそのことを彼に問いただすことは出来なかった

    何とも言い難い薄気味悪い胸騒ぎが、全身を覆うのを感じた。大陸で最も勇猛なファイターである我々が、こんな取るに足らない男に、臆病な娘のように恐 れを感じていたのだ。木の枝に留まっていたフクロウが飛び立つ時の羽根のわずかな音に、我々は皆びくっと身をすくめた。男は我々をあざ笑い、タバコに火をつけて語りだした。

    「私が話した神々の話が、君たちが知っているものとは違うからと言って、頭から否定しようとはしないでくれ。君たちの神官が、このさすらいの詩人より も真実に近いという証拠はどこにもないのだ。神々の御業は神の御心であって、ヒューマンの意志ではないのだ。神官ごときがどうして真実を知っていると 言えようか。私の話に耳を傾けるがいい。これは、神々が消えた後の大陸の話。君たちが歴史と呼んでいる話だ。」