アデンにはたくさん森があって、恐いところや息を飲むほど綺麗な場所があります。ぼくが生まれた話せる島には小さな林しかありませんでした。でも、木々はまばらでオレンジ色のお日様がいつもぼくを見てくれているようで大好きな場所です。
ここは、大昔の廃墟が、もはや石材と変わっていく途中の物もあるほど古い森です。木々には細いツタや薄い苔があり、まるでローブを着ているようで、葉の色も新緑ながらどこか重厚な時間を持っていました。
新しいローブも、どこか魔力を含んだ風をはらんでどんな魔法も使えてしまいそうな着心地がします。そうだ、猫さんはどこだろう。
「猫さん!」
早く見せたくて猫さんを呼ぶと、近くの木の低い枝からするり、とアイボリーの毛並みが降りてきました。
「にゃ?」
「このローブ、かっこいいでしょ!強い魔法が使えそうだ」
「、、、」
猫さんの大きな目が曇る。以前なら、一緒に喜んでくれていたのに。ぼくは流れていた風が急にぎこちない塊まじりのように感じました。きっと、よくないことが起こる。1番ぼくに起こって欲しくないことが。
猫さんが大きなふわふわの手をぎゅっと握り込みました。
「アシュレイ、ヒューマンには2つの違う魔法を宿し続けることはできないのは知ってるにゃ?」
「うん。でも2つ併せ持っちゃうことはこどもに多いんだよね。」
「そうにゃ。だけど、アシュレイはまだ炎とアルカナ界をつなぐ力があるにゃ。大人だし、訓練で得た力も強大で、ほんとほ今すごく危ない均衡を保っているのにゃ」
「崩れたらどうなるの」
わかっていた。いや、少し結末が予測できたのです。炎があふれ出せばぼくは自分もろとも周りのものを焼き尽くしてしましいます。アルカナ界の力がコントロールできなければ、猫さんと同じ召喚獣になるか、その身がゲートになり二度と、旅はおろかヒューマンとして戻ってもこれなくなってしまいます。ぼくの自我も残る可能性は低く限りなくゼロに近くありました。
猫さんはひげをピッと引き結んで口を開きます。
「どちらか、捨てるチカラを選ばなきゃいけなくなる
にゃ。」
「・・・だとしたら、ぼくは猫さんと一緒にいるよ。ひとりぼっちなんていやだ。」
「・・・こんな召喚主に出会えるなんて、俺はハッピーなキャットにゃ」
笑いかけようとした時、不意に頭を殴りつられたような激しい頭痛がぼくを襲いました。目も開けられずその場に膝を着きました。
「あ、熱い、、、!!」
落ち着くためにすった息は喉を焼かんとするほど熱かった。恐怖が、ぼくを取り囲み押さえつけました。ソーサラーの力とウォーロックの力が溢れ出て、ぼくを取り込もうとしているのです。
(抑え込めなかったら、もう、猫さんと一緒にいられない。・・・いやだ、いやだ!いやだ!!!
腕の焼け付く痛みで目を開けると、制御できなくなった魔力で袖ぐちに炎が渦巻く。それはぼくを守るものではなく、傷つけるようで、締め付けて食いつくように肌を焼いていきました。ローブは、そんなもの幻かのようにただはためいています。必死で魔力を押さえ込もうとすると、自分の身がめちゃくちゃに引き裂かれそうな不快で苦痛に満ちた感覚が襲いかかってきました。気が狂いそうな断末魔を吐き出して、猫さんに火がつかないように体を引きずって、逃げだします。
なんとかしないと・・・。
すると、猫さんが今まで使ったことの無い魔法陣を呼び出しました。なにかはわからないけれど、自分が壊れそうな中、それは止めなくてはならないと欠片ほどのぼくの心が叫びました。
「アシュレイ・・・!ぼくは、こうするしかないのにゃ・・・!」
「だめ!!猫さん・・・!!やめろ!だめだ!!!!」
ひどく悲しい。猫さんはなにをする気なんだろう。あらん限りの力で炎の魔力の流れを切り捨てようと、あがきました。ぼくが拒絶するほどに炎はぼくを傷つけていきました。手を伸ばして、猫さんがどこかに行かないようにしなきゃ行けないのに・・・!
(心が壊れてしまいそうだけど、もう少し、もう少しで分離できる!猫さん、行かないで・・・!!)
「アシュレイ・・・!・・・さよならにゃ・・・!」
「いやだ!!猫さん・・・・っ!!」
聞きたくありませんでした。最後まで、聞きたくなかった言葉でした。魔法陣が完成して、猫さんがアルカナ界の光に包まれ、消えてしまいました。
自我を引き裂くような不快な分離感が消え、ぼくにはただちらちらと燃える炎が残されました。
切りつけられた傷が口を開け、一瞬置いてから血が吹き出すように、猫さんがいなくなったことへの悲しみが溢れ出して慟哭になりました。
のどがちぎれそうなほど泣き叫んで、座り込むしかできないほどぼろぼろになっていても、脳裏にちぎれて残る召喚魔法を構築しました。
1度唱えるたび、頭蓋骨の中にピシリと稲妻がはしり、めまいがひどくなっていきます。
それでも2度唱えると、眼窩をキリでつかれたような痛みが襲い、3度唱え、涙に赤いものが混じり始めました。
何度ためしただろうか。
焦げた草には、涙混じりの血溜まりがしみをつくっていました。
だけど、アルカナ界と通じた時のあの温かな感覚はありません。
魔法は形を作る前に脆く散っていきました。
もう、ぼくには召喚士としての力はありませんでした。
怒りと悲しみに任せてなにもかも炎で包んでやろうと詠唱しても、涙に消されていってしまいます。
悲しい。
さびしいよ。
苦しいよ。
思い出はぼくにとって最も残酷な方法で心を傷つけました。座り込んでいることもできず、ぼくはその場にうずくまりました。まだくすぶる火の匂いと血の匂いがより一層濃く、ぼくの鼻腔に広がります。
「ぼくの、大事な、相棒を、返してよ・・・!!!返してくれよ!!!!!!!!」
涙と慟哭が再び溢れ出しました。
小道の途中で休憩をとって眠っていたアシュレイの様子が急に変わった。
怯えるようにうなされ、悲痛に泣き始めた。慌てて肉球で顔色の悪い頬を叩きまくる。なかなか目が覚めない。夢の世界にとらわれているかのようだ。
ばちっ、と炎が散った。
「フギャッ!」
とっさに飛び退り、勢いで後ろ向きに転がってしまう。右の頬が熱く、ひげが焦げていると悟った。ブレイズの端くれのように大きい。毛皮に燃え移るかも。
「いやだ・・・猫さん・・・!」
こんな状態でも召喚獣の心配をするのか。うれしいとも、こいつはばかだと呆れるとも言える複雑な感情が湧き上がる。
「アシュレイ!アシュレイ!!起きるにゃ!」
気合いを入れ、ゆさぶって名前を呼んだ。帰ってこい。何が起こっているかは知らんが俺はここにいて、ちょっとヒゲが焦げてびっくりした以外何ともない。少々火にまかれてもかまうもんか。猫ができる範囲の声と肉球打撃を繰り出した。
夢になんか囚われているな。お前らしく切り抜けて帰ってこい!!アシュレイ!!
「!!!」
不意に恐怖に満ちた黒い瞳が見開かれる。しゃくりあげて、俺をじっと見つめる。
「猫さん・・・」
涙にかすれ、消え入りそうな声で俺の愛称を呼んだ。まるで、召喚を覚えたてのあの時のように、不安に追い詰められた顔だ。
「なんの夢見てたにゃ。俺はどこへもいかないにゃ。」
肉球でアシュレイの頭をぽんぽんなでた。一瞬で、夢と思しき光景が頭に刻み付けられた。たまに、夢を共有してしまうことがあるが、そうか、二つの力の奔流に巻き込まれる「未来のひとつ」を見たのか。大量の情報で少しめまいがしたが、すぐに治まった。
夢の中の俺はアシュレイの命を助けること「だけ」を優先したようだ。
だが、いなくなったあとあれほど悲しまれるのなら、焼け死ぬ覚悟で暴れる炎と戦ってやる。それほど、アシュは絶望に支配されていた。
俺の手をつかみ、起き上がって耳をぎゅっとつかんだ。食いしばった唇から消えそうな声がこぼれる。
「猫さん、いなくなってない・・!」
耳をつかまれるのはいやだが、こんなに泣きじゃくられたら邪険にはできない。おとなしくつかませたままにした。落ち着けよ、とのどをごろごろ鳴らして見せるとくしゃくしゃの泣き笑い顔になったアシュレイが俺をぎゅっと抱きしめた。涙の匂いが濃くただようローブに俺もぎゅっと抱き着いた。
「怖いことなんてなにもないにゃ。おやつ食べて元気だすにゃ!」
「・・・うん!一緒に食べよ!」
まだ目が赤いが泣き止んだ。とっときのパウンドケーキの封を切り、大好きな紅茶をドワーヴンギルド製の金属マグにたっぷり淹れる。起こす火種はいつもより厳しく制御され切っていたが、紅茶をひとくち飲むと、徐々にいつものアシュレイにもどっていった。熱い紅茶は飲みにくくて嫌いだが、なぜか今日は同じものを飲んでみたくなった。が、湯気すら熱くてやはり飲めたものじゃない。冷めるのを待とう。
「アシュレイ、こわい夢をみていたのにゃ?」
「・・うん、ふたつの力が暴走してね、猫さんがアルカナ界に、ほんと還っちゃう夢。・・ぼくはウォーロックになるってきめてるのに、変だよね。でも、あの苦しみも悲しさも、炎の熱さも、夢じゃないくらい鮮明だったんだ・・・。」
「・・・あんなに炎に巻かれて苦しむアシュレイ、ほってアルカナ界に還るなんて、今の俺にはできないにゃ。」
アシュレイが神妙な顔になる。
「どうして、知ってるの」
「俺に触ったとき、魔力の奔流が一瞬流れたにゃ。夢の内容がそのとき一緒に流れ込んできたのにゃ」
「・・・そっか。召喚獣には伝播しやすいんだったね。」
「にゃ。それに、あれは『起こりうる未来のひとつ』にゃ。予知夢の一種だからあれほど鮮明に見えたのにゃ。」
その場の空気が不安で張り詰める。俺はアシュレイの目をまっすぐ見た。
「たくさんの未来の中のひとつの道があれだったのにゃ。」
「いやだ。ぼくは猫さんと一緒にいるんだ。炎の力なんていらない!」
「落ち着くにゃ。あれをみたからああなるとは限らないのにゃ。俺がいなくなったあとのアシュレイも見えたのにゃ。何回も、ぼろぼろの体で召喚魔法を使って、絶望して泣きじゃくって・・・あんなに悲しむなら、ちょっとくらい焦げようとアルカナ界の力をつなぎとめていたいにゃ」
苦しみから早く解放してやろうと思ったのだろう。確かに、苦しむアシュレイは見たくない。だが、そのひとかけらの思いは結果として、癒えることのない深く残酷な傷を残す未来をつくった。そうなるくらいなら、最後まで、最期の瞬間までともに戦う相棒でいたい。
「さびしかった。ひとりぼっちになった瞬間、思い出全部が、ぼくのことをめちゃめちゃに傷つけていった。」
「夢の中の俺がしたこと、唯一納得できるとこは、『こんな召喚主に出会えるなんて、ぼくはハッピーなキャットにゃ』って言ったことくらいにゃ。ギランには捨てられた召喚獣たちがいるくらいなのに、俺はこんなにも大事に、おやつまで用意してくれる召喚士に出会ったのにゃ!」
「当り前じゃないか。猫さんはただのキャットじゃない。ぼくの友達なんだ。」
「夢であろうと、もうひとりぼっちにしないにゃ。」
ちょうどよく冷めきった紅茶をぐっと飲み干す。これがアシュレイの好きな香りか。案外悪くない。
「ありがとう。ぼくも、猫さんのピンチは絶対助けに行くからね。」
笑った目から涙が一筋。でももうじき乾くだろう。
「頼りになるにゃ!」
今までだって、おたがいのピンチはアシュレイの小脇に抱えられて遁走か、ブレイズを撃ちまくった挙句の殴り合いと、とにかく二人ともが助かる方法ばかりだった。ルーンストーンひとつで何度でも戻ってこれる身だから、そこは素直に俺を囮にしてほしい。
アシュレイの命は、この一つ限りなのだから。
だが、それができない性分も嫌いではない。
「なんか、今日はめずらしいね、紅茶嫌いじゃなかったの」
「熱いものが嫌いなだけにゃ。冷めれば悪くない味だったにゃ。」
「じゃあ、今晩のごはんさ、コーンスープに挑戦してみようよ。きっとおいしいよ!」
「ええ・・大好きなクリームいりだけど、冷めるのに時間がかかりすぎにゃ~・・」
「ちゃんと冷めるまでかき混ぜて待ったらいいよ。冷製スープにもなってるくらいだし。ね、ぼく作るよ!」
いたずらっぽい純真な笑顔に戻った。うれしいが、やけどしないか心配になった。出来立てのままで渡してくれるなよ・・肉球までやけどするわけにはいかない。やはり心配で、念を押した。
「ぬるいの、たのむにゃ。」
「わかってる。あつあつコンソメ事件みたいにはもうしないからね。」
「物覚えのいい召喚士で助かるにゃ。あれは・・大変だったにゃ・・@」
夜の草原、熱いコンソメスープ、これはもうこりごりだ。優しさが交錯して引き起こした事件で、あれ以来旅の携帯食料は常温のものが増えたほどに。
「でも携帯食も減ってきたし、また買い出しに行かなくちゃ。」
「なら、ギランでツナ缶とサバ缶買ってくれにゃ。」
「うん、買おう。ぼくもそろそろふかふかのパンが食べたいや。」
普段の会話が、なぜか一段とほっとする。いろんな未来に、希望を馳せるアシュレイが一番だ。
最近自分もえらく鮮明な夢を見たのであります。きれいな海と砂浜のある場所で、イルカと友達になって遊んでいました。いくら泳いでも疲れない、それはそれは、楽しい夢だったのであります。
目覚めても、もう一度見たい、と思ったらその続きがみられてとても楽しかったのですが、寝坊して友人に怒られました@
春先は種族問わずにすこし不安定になりやすくて、変な夢見が多い中でもえらく爽快な夢でありました。あー、これだけコントロールが効くなら、あの夢の続きやこの夢の続きもみたいなぁ、眠たい季節だし居眠りついでにリフレッシュでありますw
~旅の途中で~
組み換えファッションショー
ん~・・デザインがあってるようであってないにゃ・・・
うーん・・好きな二つを合わせてもかっこよくなるとは限らなかった。
じゃ、これにしよ。巡査さんのお気に入り!
えっ、自分でありますか?!わぁあっ!
お気に入りポイントの説明をどうぞ!(杖をマイク代わりに
語るにゃ!
えっ!えっと、えっと@
ワッフルみたいな柄がおいしそう、胸のフェイクタトゥーが少し色っぽい、のふたつであります@
いいなー、衣替えが近いし、ぼくも着てみたい!こんなデザインになるのかな・・・・。
俺にも新しいベスト、買ってくれないかにゃ。
なおんちょさん , バニラルンさん , asukaだよさん 他4さん が 「いいね!」と言っています。
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転クエでのやり取りですね。
きっと私たちの気付かないところでこう言ったやり取りがされてるんでしょうね^^
ギランでツナ缶サバ缶…センスp(^-^)q -
僕は普段、活字の本とか全然読まないので、すごく新鮮な気分で読ませていただきました。
僕は動画ばかり作ってますので、こういう文章でのアプローチというか、表現の仕方もアリだなとあらためて感じました。
内容ですけど、最初の2、3行を読んだだけでスッと世界に引き込まれました。コーンスープ、大好きです!w -
プリティーふーまんさん
読んでいただいてコメント、ありがとうございます、
きっと、選びとるだけでなくてこの道を選ばざるを得なかった人達もいたのではないかと思ったのでありますよ。
キッツの召喚獣の事もありますし、彼らも色んな気持ちで自分らを見ている気がしてお話しにしてしまったであります。
やはり商業都市でありますから、プレーンなおいしい缶詰があるはずであります!w
しれーあ2世さん
読んでいただいてありがとうございます!
自分は本ばかり読んでいるカマエルでありましたからw
あまりスマートな文章とは言えませんが、得手があるのであります。ですが、ダイナミックな動画作製の腕がすてきなのであります。いつも一気見でどきどきしてるでありますよw
じっくり入り込んでもらえて、うれしいのであります、、、!
アシュレイ特製コーンスープ、ぜひほっとしたい時に持っていくであります!w熱いのが苦手なら、猫さんのように少し冷ましてからどうぞ!w -
転職クエストが省略されてしまってから久しくありますが、
本当は一人一人にこういった葛藤があったのかもしれません。
そうですよね。 サモンは鉄砲玉じゃないんです。 友達です。
特にキャットザキャットはド○えもんのようなイメージです。
あと、猫さんが案の定猫舌であることにクスリときましたw -
千代りんさん
読んでいただいてありがとうごさいます~!
そろそろ彼も転職であります。大昔の攻略本に、手順があったからより各々の心が思い浮かびやすかったのであります。
おともに憧れていたぶん、愛着がありました。1番そばにいてくれる、大切な相棒であります。なんだろう、あの守りきれなかった時の切なさw
それに、特有の響きの呪文も好きなのでありますw
そうなのです。猫さんはスープに関する事件があって、特別猫舌なのであります、、、w
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イメージ板にいろんな人がいろんなスレを立てていますが
チェローカさんのスレは個性的。
小説になっている!
物語になってる!
想像や思いを込めながらリネをされているのが伝わります。
そうなんだ^^と思ったとこがふたつありまして、
やはり定番!猫は猫舌!これには読んでいてニコっとしてしまいまして、
もうひとつは、ギランにはツナ缶も鯖缶も売ってるんだ@@と。
さすが!ギランだゼ!ないものはない!ですね^-^ -
バニラルンさん
読んでいただいてありがとうございます。ふと休憩中に色んな事がよぎってこういうなんか長い文になるのでありますよw
器用な猫もいるようですが、彼のとこの猫さんは、肉球から猫舌気質でありまして、、、w
やはり常温の缶詰の方が好きなようですwそれも、ギランのメーカーが1番美味しいとのことであります。
あそこはやはり市場が充実していますね~、これこそ商業都市でありますw